開業資金の準備・調達について

紙幣を並べて開業資金をイメージさせる画像
起業に際し、一番の課題となるのが資金の調達です。全額を自己資金で賄える場合を除いて、金融機関からの融資に頼るのが一般的ですが、うまく資金を調達して開業を実現するためには、知っておくべきことがあります。

自己資金について

【自己資金はなぜ必要か】

新規事業を行うために融資が得られるのならば、自己資金は必要ないのでは? と考える人もいるかもしれません。しかし、これから事業を始めようという人が、自分で全くお金の準備をしていないというのはいかがなものでしょうか。

 

事業を始めるにあたっては、「事業計画」が必要になります。この事業計画の中では、当然資金計画についても詳細に練られていなければなりませんが、そこに自己資金の準備がないということが記されていたらどうでしょう。金融機関は事業計画書を見て、その事業の実現性や将来性に対して融資可否を判断します。自己資金がゼロの事業主から資金の借り入れを頼まれたところで、金融機関は事業への本気度を疑い、断るというのが実情でしょう。

 

さらに、実際に融資を受ける前から開業への準備は始まっているわけですから、その段階である程度の資金は必要になるはずです。その意味でもやはり自己資金は必要になります。では、どのくらいの金額があればいいのでしょうか。

 

「2021年度新規開業実態調査」(※)によると、新規開業時の資金調達額の平均は1,177万円で、うち金融機関などからの借入れが平均803万円(約68.3%)、自己資金の平均は282万円(約23.9%)となっています。政府系金融機関である「日本政策金融公庫」では、「新創業融資制度」を利用する際の要件の一つに「(融資)総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方」というものを設定していますが、上記調査結果から見ると、2割以上の自己資金を準備して開業に臨む人が多いと言えそうです。実際に問題なく融資審査を通過するためには、3割の自己資金があると安心かと思われます。

 

また、「自己資金」を考えるときに気を付けなければならないことがあります。それは、融資を申し込む際には、「事業に使用される予定の資金」しか自己資金として認められないということです。つまり貯蓄があっても、家族の生活資金とか教育資金などは事業用の自己資金に含めることができないということです。

 

自己資金は、基本的に貯蓄を積み重ねたものが金融機関では認められます。計画性をもって積み立てた実績が、事業経営者の資質として評価されると言われています。反対に、同じ金額でも一度に口座入金したものは自己資金としては認められません。これは融資を受けるためにそのときそろえた一過性の金銭だと判断されるからです。

 

ただし、金銭でなくても自己資金として認められる場合があります。開業の準備として事業に必要な物品などをあらかじめ購入した場合は、その金額分が自己資金として認められる可能性があるのです。これを「みなし自己資金」と言います。

 

いずれにしても、事業計画に説得力が備わるだけの自己資金と計画的な準備が必要であることは確かでしょう。

 

※出典:日本政策金融公庫 総合研究所「2021年度新規開業実態調査」~アンケート結果の概要~(2021年11月29日)

 

【援助による資金増額】

起業に際し、親や親族から資金援助を得られることもあるでしょう。資金が増えるという点ではとてもありがたいことですが、融資を申し込むときには援助の形に気を付けなければなりません。例えば、日本政策金融公庫では、援助された資金が返済の必要がある借入金という扱いなら自己資金として認めない、ということがあるからです。この場合、自己資金として融資を受けたいのならば、「贈与」という形をとる必要があります。ただし、贈与にすると金額などによっては贈与税がかかってくるので、こちらもよく考えておく必要があります。

「日本政策金融公庫」の融資制度を利用する

事業主が融資制度担当者に融資相談をしている様子の画像

民間金融機関による融資が難しい、実績のない新規開業資金について、積極的に貸し出す方向で支援してくれるのが、政府出資によって設立された「日本政策金融公庫」です。中でも多くの事業主が利用しているのが「新創業融資制度」です。無担保・無保証人など、融資条件のハードルは低めに設定されていますが、事業計画や返済計画等、きちんとしたものを提出する必要があるのは民間金融機関と同じです。

 

【利用条件】

新創業融資制度を利用するには、いくつかの条件を満たす必要があります。大きく分けて、「創業の要件」「雇用創出などの要件」「自己資金の要件」の三つの要件があるので、利用を考えるならしっかり確認しておきましょう。

 

1.創業の要件

新たに事業を始める、もしくは事業開始後、税務申告を2期終えていないこと

 

2.雇用創出などの要件

雇用の創出を伴う事業、技術やサービス等に工夫を加え多様なニーズに対応する事業、過去に長年勤務した業種と同じ事業(6年)、など

 

3.自己資金の要件

創業時に創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使うための資金)が確認できること

 

 

【融資限度額】

融資には限度額が定められており、最大3,000万円まで(うち運転資金1,500万円)となります。これはあくまでも上限額であり、審査の結果によって金額は変わってきます。一般的には、自己資金額が多く事業計画がしっかりと立てられていると有利だと言われています。

 

【新創業融資制度の特徴】

新創業融資制度の特徴は、何と言っても担保や保証人がなくても融資が受けられることです。起業を支援して日本経済を活性化していこうという、国の政策に沿った経営方針で、起業に際して必要な設備資金・運転資金を提供します。また、融資申請の書類を整えて担当者との面談が済んでから審査結果が出るまでの期間が、通常の場合で二週間程度と短めなのも特徴でしょう。

 

このように、日本政策金融公庫の新創業融資制度は、比較的借り入れしやすい融資制度ですが、堅実な事業計画をしっかりと練り上げ、現実的な返済計画を提示する必要があります。営業の許認可が必要な業種は、許認可が下りないと融資実行されない場合があるので、対象となる業種については事前に確認しましょう。また適用要件や金利などは変更されることがあるため、最新情報の確認も必須です。

「制度融資」を利用する

「制度融資」とは、各地方自治体と民間金融機関、信用保証協会が連携して企業融資を行う制度です。融資を行う金融機関に対して、自治体が金利負担や預託などを行い、保証協会が保証を行う仕組みとなっています。

 

【制度融資の特徴】

制度融資は、まず新規事業資金が借りやすいというのが最大の特徴です。例えば、企業を退職して個人で商売をする場合、経験も実績もないので、その事業の継続性・将来性が不透明なのも事実ですから、一般的には金融機関はなかなか融資に踏み切りにくいというのが実際のところでしょう。

 

しかし、社会の活性化のためにセカンドキャリアを支援することは、高齢化が進む中ますます必要になってきます。その意味で自治体が制度として設けている制度融資は、審査の基準を柔軟にして、個人事業主に対しても広く融資が得られるようにしています。

 

また、借入金利が低いということも特徴でありメリットです。これも上記の支援方針を前提としているので、高い金利を課して利用者の事業継続が厳しくなるようなことを極力避けるという、基本的な趣旨によるものでしょう。ただし、金利の設定は各自治体の制度ごとに異なりますので、それぞれに確認が必要です。

 

借入資金の返済に際しては、「据置期間」が長いということも特徴の一つです。「据置期間」とは、借入元本を返済せずに金利分だけを支払う期間のことです。この期間が1年程度まで設定できることが多いので、資金繰りが不透明な開業当初においてゆとりを持った返済計画が立てられます。

 

一方、審査期間が長め(2カ月程度かかることもある)、自己資金要件の準備割合が高い(融資額の50%ということもある)、連帯保証人が必要な場合が多い、ということは、デメリット的な特徴として挙げられますので、合わせて認識しておきましょう。

 

【利用条件・融資限度額など】

自治体が行う制度なので、各自治体の管轄内で事業を営む事業主・企業が対象になります。条件の詳細は自治体ごとに異なります。

 

融資限度額についても自治体ごとの設定内容によります。業種や事業規模によって変動設定されている場合もありますので、対象地域の制度内容を確認しましょう。

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